コレクション制作の舞台裏
... with Shabaka Hutchings & Lianne La Havas
マルベリーとのコラボレーションによる限定コレクションのリリースを記念して、ロンドンを拠点に活動するデザイナー、ニコラス・デイリーが、BBCのプレゼンター、NTS RadioのDJ、ミュージシャン、作家という肩書を持ち、彼の婚約者でもあるナビハ・イクバルのインタビューに答え、自身のクリエーションの源泉としているジャマイカ人およびスコットランド人としてのアイデンティ、そして音楽への想いについて語りました。
コミュニティ、クラフツマンシップ、文化。この3つを軸に創作活動を行うニコラス・デイリーは、作品を通して自らのルーツやアイデンティを探り、その原点を紐解くことで、本来の姿を率直かつありのままに表現しています。
スコットランド人の母とジャマイカ人の父の間に、英国ミッドランド地方で生まれたニコラス・デイリーは、現在はロンドンを拠点に活動を展開。自らの感性に忠実に、こだわりと情熱を持って創り上げた作品は、ファッション界でも一目置かれるものとなっています。ピュアな感性が息づく彼の作品は、さまざまな文化や歴史を背景に持ちながら、英国人として生きる新世代の若者たちからも大きな共感を得ています。
マルベリーとニコラス・デイリーとのコラボレーションは、英国で比類なきクラフツマンシップの伝統を築いてきた高級レザーブランド、そして英国の歴史をベースにしながらも、常に進化を続けるこの国の文化を異なる視点から描き出すデザイナーが手を組む機会となり、独特の魅力を融合させた作品が仕上がりました。
60年代や70年代に人気を博したレゲエやジャズ、ロックのエッセンスを散りばめながら、自身のアイデンティを反映したディテールを取り入れ、マルベリーの定番バッグ「アントニー」をアップデート。またバッグだけでなく、丁寧に作り込まれたレザーの帽子やギターピックポーチ、楽器のストラップなどがコレクションに加わりました。
本コレクションのモデルを務めるのは、シャバカ・ハッチングスやリアン・ラ・ハヴァスなど、数々の受賞歴を誇るミュージシャン。マルベリーの職人技が光るアイテムの数々が、ニコラス・デイリーのビジョンを通してさらに輝きを増します。
制作過程においてはミュージシャンをイメージし、「問題解決」の手法でデザインに取り組みました。「動きや自由を制限することなく、(ミュージシャンに)しっくり馴染んでその存在を際立たせ、最高のパフォーマンスを引き出すことのできるファッションアイテムやアクセサリーを創るにはどうすればいいか」と、自問自答を繰り返したとのこと。
リアン・ラ・ハヴァス、シャバカ・ハッチングスの2人も、ニコラス・デイリーがデザインしたアイテムについて、デザイン性が高いだけでなく、着る人のニーズに寄り添う作品と評価しています。本コレクションのレザーのパッチワークの帽子を被り、フリンジ付きのレザージャケットを身に付けたリアン・ラ・ハヴァスは次のように説明します。「とても気に入りました。演奏中は特にパワーが必要ですが、強度に優れているので自信を持って演奏することができます。また、袖のように肩をしっかり覆うデザインになっているので、安心感を感じながら自由に自らを表現することができます」。
サクソフォーンストラップを着用したシャバカ・ハッチングスは次のように語ります。「力強さと繊細さ、強さと優しさなど、両極にあるものが交差し、融合するものにとても興味を惹かれます。 簡単に壊れることのないしっかりとしたつくりで、高い強度と耐久性を持ちながら、動きに合わせて柔らかにフィットする柔軟性も備えています。ミュージシャンにはフレキシブルな滑らかさが求められる一方で、あらゆる動きにフィットする強度も必要なのです」。
ニコラス・デイリーの創作活動において重要な位置を占める音楽は、デザインのインスピレーション源としてだけでなく、コレクションを発表する媒体としても使われており、今回のマルベリーとのコラボレーションでも全体の要となっています。音楽には人と人をつなぎ、独創性を生み出す力があります。音楽とファッションが融合し、才能あるアーティストが出会うことで、素晴らしい体験が生まれるのです。
ジミ・ヘンドリックスがステージ上で着用していたような派手なフリンジや、マイルス・デイヴィスを思わせるカラフルなレザーのパッチワークから、今回のコレクションの主要テーマである音楽への愛が伝わることでしょう。さらに、リアン・ラ・ハヴァスやシャバカ・ハッチングスといった現代を代表するミュージシャンによって、こうしたディテールがさらに際立ち、より一層コレクションに個性が添えられています。
作品やコレクションの発表手段としてミュージシャンを起用したニコラス・デイリーのアプローチは、ファッション業界における従来の「モデル」の概念を覆すものです。美しさと機能性を兼ね備えたファッションアイテムやアクセサリーすべてに、マネキンではなく、着る人のことを考えてデザインするという姿勢が反映されています。ニコラス・デイリーはフラットな二次元のイメージではなく、コレクションや作品に漂うムードや動き、さらには着る人のボディや個性にいかにフィットするかを伝えたいと望んでおり、
今回のコラボレーションでも同様のアプローチを採用。人類の歴史が始まって以来、さまざまな工芸品に使われてきたレザーに焦点を当て、歴史、伝統、文化、スタイル、そしてアイデンティティを、質感、色、形、肌触りといった要素で表現しました。
音楽の世界に目を向けると、時代を問わず、大勢のアーティストがレザーを取り入れたファッションを楽しんでいます。シャバカ・ハッチングスは次のように述べています。「ファッションは自己表現のひとつです。音やイメージ、感情を通して自らを伝えるのと同じです。鏡に映る自分の姿を見て、気分が左右されることもあるでしょう。見た目によって印象は変わるものであり、観客は最初に目にするミュージシャンの姿を見て、パフォーマンスを判断します。音楽に合わせて、昔のスタイルを取り入れたクールなファッションでキメれば、見た目と音楽のバランスが取れ、一貫したイメージを作り上げることができます」。
レザーの魅力はその耐久性にあり、廃れることなく使い込むほど趣が増して、いつまでも長く愛用いただけるタイムレスな素材です。過去と現在をつなぎ、文化とコミュニティを大切にしながら未来に向けた活動を行うニコラス・デイリーのようなデザイナーが英国を代表するレザーブランドのマルベリーとコラボレーションを行うというのは、至って自然な流れだったと言えるでしょう。